この本を要約すると
回転ではなく上下に動かす
スピンアウトを防ぐ
アマチュアあるあるを列挙
個人的感想とYouTubeについてなど
ティーチングプロ三觜喜一さんによる、レッスン本になります。
(三橋でも三嘴でもなく「三觜」というのは珍しい苗字ですね)
YouTubeでも比較的初期から参入していて、再生回数も多い人気のコーチです。
が、結論から言ってしまうと、私の考えとは違う点があまりに多すぎる、と言わざるを得ません
実は、私がまだハンドファーストで打てなかった頃、三觜さんのYouTubeチャンネルをよく見ていた時期がありました。
しかし、結果は全く成果に結びつかず……。
その後ハンドファーストに打てるようになってから振り返ってみたときに、「ああ、これはアマチュア向きのレッスンじゃないな」と強く感じました。
- 感覚の話が多すぎる
- 自分の理論や感覚が絶対だと思っている
- できる人基準のアドバイスが多い
書籍に沿って一つ一つ挙げていくとキリがないので、代表的なものに絞りました。
簡単に見ていきたいと思います。
賛同できない点①:感覚の話が多すぎる
本書で随所に出てくるのが「感覚」「イメージ」という表現です。
直線運動を理解していれば打ち込もうという感覚になりやすいので、(後略)
序章スイング動作のイメージ 19ページ
まず末端のクラブヘッドがスタートして、それに手や肩が動き、最後に左サイドがグッと入ってくるというイメージです。
第2章スイング作りの基本 64ページ
直接的に「感覚」という表現は使っていなくても、感覚論を話している部分も多々あります。
私は、
- 体の構造の差異
- 個人の感じ方の違い
- 話し手と聞き手の前提条件や日本語力の相違
など様々な要因から、ゴルフレッスンではなるべく感覚論を使うべきではない、と考えています。
本当に重要なのは「事実がどうなっているか」です
客観的に「どのタイミングで」「どのポジションに」腕や腰や足が来ているかを正確に把握することです。
感覚については、個人個人が後付けすれば良いのです。
賛同できない点②:自分の理論や感覚が絶対だと思っている
上の話に付随しますが、本書(ゴルフは直線運動で上手くなる!)では、基本的に三觜さんが主張する「絶対的なスイング」とでも言うべきものが存在しています。
そして、その感覚を習得できるかがゴルフ上達の分かれ目である、というような論理展開になっています。
これは、やり方として(あくまで個人的には、ですが)賛同しにくい方法です
こちらの記事でも紹介しましたが、
ゴルフレッスンで注意すべきものの中に、
- カリスマレッスンプロ
- 根拠のない断言
というものがあります。
人はどうしても、「肩書と断言」に弱いです。
例えば、以下のようなものです。
左手の尺骨軸でクラブを握っていることが大事で、これができていないとヘッドを持ち上げたくてもできません。
第2章スイング作りの基本 58ページ
尺骨(薬指)を基準に握る感覚について、私は理解できますが、例えば4スタンス理論の1タイプをはじめ、橈骨(人差し指)を基準に握るべきとする主張もあります。
スライスが出るなら(中略)フォローでグリップポイントが飛球線後方から見えるぐらい極端にフェースターンしてみよう
第3章ミスショットの修正法 91ページ
過剰なフェースターンは、いわゆる手打ちやアーリーリリースを誘発する可能性があるので、私はオススメしません。
本書は、科学的あるいは統計的な根拠がないまま、このような断言が次々なされていきます(自身のレッスン経験に基づいているのだとは思いますが)。
また、代替となる方法や他の可能性の提示もほとんどありません。
もちろんゴルフ理論ですから、私を含め、誰であれ確たる主張が根底には存在しているわけですが、三觜さんの場合は「遊び」の部分が極端に少ないと感じるのです。
非常にパターナリスティックです
この傾向はYouTubeで特に顕著で、説得力を感じさせる強めの表情と低い声で
- 「○○さんはここがダメですね」
- 「××しなきゃ打てるわけないですね」
と言われると、全面的に正しい気がしてくるのです。
私が三觜氏のYouTubeチャンネルをよく見ていた頃、まさにこの勘違いをしていました。
- この人はかなり説得力がある
- → 自分の悩みをズバズバ言い当てている
- → 解決策も正しいことを言っているに違いない
- → できないのは、私の才能がないからだ
という勘違いです。
しかし、当たり前ですが、人間は個体ごとに様々な差があります。
三觜さんの感じ方と私の感じ方は違うのではないか
と気付いて、自分なりにスイングを分析しだしてから、私はあっという間にハンドファーストで打てるようになりました。
それでも、もちろん三觜さんの指導と相性がピッタリという方も多いはずですし、それを否定するつもりはありません。
しかしそれでも多くの場合、年会費50万円以上を払って、継続的に彼のレッスンを受ける必要はあるでしょう。
賛同できない点③:できる人基準のアドバイスが多い
さらに、この本の有用度を下げてしまっている要素として、アドバイス内容が「できる人の目線」「上級者基準」になってしまっているというものがあります。
例えば、こちら
両脇を締めた状態からまっすぐテークバックすると自然にハンドルを左に切るような動作が生まれ(後略)
第2章スイング作りの基本 69ページ
三觜さんの一貫している主張である「テイクアウェイは左ハンドル」という表現です(左ハンドルという表現は、他のレッスンプロもたまに使ってますね)。
私が初めてこの表現を聞いたとき、正直何を言っているか理解できませんでした。
正確には、
なんとなくの想像はできるが、自分がやっている動きが合っているか分からない
という状態です。
「正しいスイング」ができる今なら、「なるほど、この動きを言いたいのか」と分かりますが、「できない人基準」で考えるなら左ハンドルという表現が適切とは思えません。
実際、今になって考えると、昔の私は明らかに「左ハンドル」という言葉のせいで、この動きを過剰にやりすぎていました
他にも、
この部分(胸郭)を肩から分離して動かすことで、ゴルフスイングとしての動きの質が高まります。
序章スイング動作のイメージ 18ページ
「胸郭の分離」というのは、まさに「できる人」を基準とした表現です。
今の私であれば、「この動きのことを言いたいんだな」という推測は立ちますが、全くできていない人が「胸郭の分離」と聞いて、その動きをイメージできるとは思えません。
身につけるためのドリルも紹介されていますが、私はそもそもドリルというものに懐疑的です
以上のように、あくまで一アマチュアの個人的見解に過ぎませんが、本書の内容に関して、私は懐疑的ではあります。
見解が合致している部分について
私は基本的にスイングは回転運動と表現すべきだと思っていますし、腰も積極的に開くべきだと思っていますので、三觜さんの見解とは真逆です。
では、見解が合致している個所もあるのかと言うと「無いことはない」という感じです。
例えば、
アドレス時の額のラインがバックスイングすると下がってしまうアマチュアが圧倒的に多いのです。
第3章ミスショットの修正法 92ページ
オーバースイングの人に「トップをコンパクトに」と言っても物足りなさしか残りません(後略)
第3章ミスショットの修正法 98ページ
このあたりの発言単体に限っては、全くの同意です。
ちなみに、このように自分の悩みを言い当てたりされると、その人のことを無条件で信用したくなるので注意です。
しかし、これら(額が下がることやオーバースイング)の解決策に関してはやはり見解が違います。
例えば、オーバースイングの直し方に関して、要約すると三觜さんはこのように言っています。
形を直すのは無理なので、切り返しのタイミングを早めて、ステップしながら打つ練習をすれば良い。
普通のアマチュアである私は逆に、形を直す方が遥かに簡単だと感じています。
そもそも、なぜアマチュアはオーバースイングになってしまうのでしょうか?
それは、「正しいトップの形」を知らないからです。
体(厳密には上半身)のターンが足りないとき、アマチュアはその物足りなさを補うために手を必要以上に動かしたり、フライングエルボーにしたり、左肘を曲げたりします。
あるいは、バックスイングをインに引きすぎたとき、インすぎない位置に戻ってくるまで腕を動かし続ける必要が出てきます。
これらがオーバースイングの正体であり、式で表すと「体の運動量<手の運動量」の状態と言えます。
先ほども言いましたが、
客観的に「どのタイミングで」「どのポジションに」腕や腰や足が来ているかを正確に把握すること
が、正しいスイングの習得方法だと私は考えています。
これができると(=正しいトップの形が分かると)、そこから逆算してバックスイングを考えられるので、オーバースイングは容易に治ります。
体の運動量と手の運動量について
本書『ゴルフは直線運動で上手くなる!』の主張と、本サイトの私の主張には、
- 同じ着眼点でありながら
- 全然違うことを言っている
箇所があります。
禅問答のようですが、説明します。
私が始動で重きを置いていることに「余り消し」というものがあります。簡単に説明すると、体の運動量とクラブの運動量のバランスを整えて余りを減らす、もしくは余りをなくす作業のことです。
第4章スペシャル対談・より理解を得るために 126ページ
この「余り消し」というのは、私も非常に大切だと考えています。
ただし、私の場合は「体の運動量」と「腕の運動量」を比べます。
三觜さんが言っている「クラブの運動量」という概念は存在しません。
ちなみに、三觜さんが主張したい内容も、もちろん頭では理解できます。
「(特にフォロー~フィニッシュにかけて)クラブに仕事をしてもらって、シンプルにヘッドの重さを感じて振りなさい」
ということです(と思います)。
「体の運動量」という表現には「腕の運動量」も含まれていると思われます。
しかし、これは再三で恐縮ですが、「できる人」サイドの発想です。
自然にシンプルに振るというのは、自分の体と腕の動かし方が分かってからの話ですし、「体」と「腕」は分けて表現しないと、誤解を生みます。
そもそも、ハンドファーストなスイングにおいて、少なくともインパクトまでは必ず手元が(ヘッドよりも)先行します。
こういった基本を考えると、腕に引っ張られてついてきているだけの「クラブ」の運動量を考えるのは、やはり無理があります。
一方で、
- 「体の運動量」は腰の回転度合
- 「腕の運動量」はトップの位置やインパクトの形
を見ることで、相当程度可視化できます。
体と腕を、しかるべきタイミングでしかるべき位置に持ってくることが重要なのであって、本書のように「極意」的な感覚をマスターする方法は、普通のアマチュアにはハードルが高いと感じてしまいます。
書籍評価
以上のように、あくまで個人の感想ですが、私のスイング理論とは大きく異なっている内容が書かれている書籍となっています。
もちろん
- 三觜さんは一流レッスンプロ
- 私はしがないアマチュア
ですので、ほとんどの方は三觜さんの方を信じると思います。笑
しかし、ここでお伝えしたいのは「絶対に私が正しい!」ということではなく、「ゴルフには異なる考え方が並立している」という事実です。
現に、私は本書や三觜さんのYouTubeを見てスイングが改善されることはありませんでしたが、逆に自分で考えてハンドファーストを習得することができました。
スイング理論 | ★★☆☆☆ |
気付き | ★★☆☆☆ |
【ターゲット】
初心者 | △ |
初級者 | △ |
中級者 | △ |
上級者 | △ |
「スイング理論が全然違うのに★2つ?」と思うかもしれませんが、これは「プロのようなスイングを理論的に目指す」という大前提は共有できているためです。
たまに、それすら諦めた「アマチュアは手打ちでOK」「とにかく手首を返せ」「アーリーリリースのつもりで打て」といったレッスンもありますので、そういったものが★1つとなります。